南千住において居住年数が浅い住民が地域への愛着を高める機会のデザイン

  • 地域デザインユニット

早川ゼミ 地域デザインユニット Aチーム
江口 享子
加藤 裕範
桜井 篤
森野 鯉都
笠 雷太
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1. 研究対象地域

荒川区南千住は、中世からの歴史を持ち、都市周縁部として江戸時代以降は日本のものづくりを支えてきた地域である。現在は、ジョイフル三ノ輪商店街を中心に下町の風情が残る西側と、2000年代以降の再開発により高層マンションや大型商業施設が並ぶ東側という、対照的な空間が共存している。再開発以降、居住者が増加し、新旧の都市空間が混在する街となっている 。

2. 問題意識と目的

調査の結果、居住年数の浅い住民は都心へのアクセスの利便性には満足しているが、地域の多層的な魅力に気づけていないという課題が浮かび上がった 。この現状が地域愛着に影響していると考え、「居住年数が浅い住民が、地域への愛着を高めるにはどのような機会をデザインすべきか」という問いを設定した 。

3. 地域愛着の定義

Scannell & Gifford(2010)は、地域愛着を「Person(人物)」「Process(心理的プロセス:感情・認知・行動)」「Place(場所:物理的・社会的)」の「PPPモデル」として三次元で整理した。

これを基盤に、本研究では地域愛着を「地域の人々との温かい関わりや地域らしさを経験する中で形成される、地域を自分の居場所として感じる感情(安心感・親しみ・誇り・離れがたさ)」と定義する 。また、これを単なる内面的感情ではなく、対人関係を通して形成・深化されるプロセスとして捉え、特に心理的プロセス(感情・認知・行動)の変化に着目した 。

4. 地域愛着×ナラティブ×デザイン

デザインコンセプトとして、住民の個人的な語り(ナラティブ)にこそ、地域の「手触り」があると考えた 。住民の「語り」を収集・可視化し、新住民へ届けるアプローチをとった 。具体的には、収集した17のナラティブをGoogleマイマップ上に実装した 。エピソードに関連する場所へピンを配置し、手描きの挿絵とテキストを用いることで、読み手の想像力を喚起する工夫を施した。

5. 実証実験と結果

居住歴5年未満の住民5名を対象に、プロトタイプ利用後のインタビューを実施した 。

感情: 「安心する」「実在の人物に興味がわいた」など、感情的結びつきや安心感が喚起さ れた 。

認知: 「歴史がある町だと知った」「親近感がわいた」など、地域の意味づけが更新された 。

行動: 「特定の場所に行ってみたい」といった具体的な訪問意向や、関与のきっかけが生ま れた 。

これら心理的プロセスの3側面に変化が確認され、地域愛着を高める一定 の効果があると評価できる 。

6.結論

本研究では、地域の日常の営みをナラティブとして可視化し、それに触れる場をデザインすることで、南千住の新住民の地域愛着を高められることがわかった。これにより、ナラティブ・アプローチが地域愛着形成のプロセスを後押しする可能性を示したと言える。

7. 今後の展望と結論

今後の展望として、利用者自身が「語る」側として参加できる共創型プラットフォームへの発展や、リアルな街歩きイベントとの連動が示唆された 。