ポゼッションリアリティによる共感形成のためのデザイン

  • 早川ゼミ

早川ゼミEチーム
伊藤 嘉之
魚返 雄二朗
軍司 大輔
小林 宏気
松平 恵美
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1.目的とポゼッションリアリティの条件
 コロナ禍でオンラインによるコミュニケーションが日常化した。オンラインで会うときとリアルで会うときの違和感から、リサーチクエスチョンを「コミュニケーションにおける距離感の正体とは?」として先行研究等の調査をした。オンラインでは身体性の欠如により感覚や情報量に差が生じることがわかった。そこでWeb会議システム等を用いてオンラインで一緒に焚き火を見て語り合う「オンライン焚き火」を進化させる環境が構築できれば、オンライン上でも新たな身体性を獲得することができ、あたかもそこにいる感覚が得られると考え、問題定義を「オンラインだからこその新しいリアルを感じるためには、どんな方法があるだろうか」とした。
さまざまなアイデアを持ち寄り、サイモン効果を参考にしながら、プレ・プロトタイプを実施した。定量評価として「多次元共感性尺度」を用いた(図1)。あたかもそこにいる感覚を「憑依現実:ポゼッションリアリティ(Possession Reality)」と定義し、成立条件を「同一目的、暗闇、周辺音、空間制約、リラックス、記憶」6つに整理し、全ての条件を満たすプロトタイプ「オンライン雑魚寝(ZAKONE)」を考案した。

2.ZAKONEとは
 ZAKONEは、ポゼッションリアリティの条件をもとに設計されたワークショップ型の体験である。まず、全体の環境設計として「興味があるテーマごとに参加者を分けること」、「心理的安全性を確保するためにニックネームで参加できること」等を決めた。次に、体験中の環境設定として「暗闇、リラックス姿勢、波音のBGM、スマートフォンのスピーカーの使用、一人になれる空間」を決めた。 更に、ワークショップの流れにしたがってファシリテーションを行い、自分の過去の体験を重ね合うように会話するように促した(図2)。評価は体験前後の多次元共感性尺度とインタビューで行った。

3.ZAKONEの実施
 ZAKONEは計5回(参加者合計21名)で実施した。流れは「開始アナウンス、参加者の環境調整、アイスブレイク、波の音開始、対話開始、振り返り・退出」とした。体験前は「寝ながら話すには背徳感がある」、「ポジティブな不安」等の、体験後は「だんだんと呼吸が合ってくる。日頃よりもゆっくり話していた」、「自分の思い出とか浮かびあがりやすかった」等の感想があった。多次元共感性尺度は、全員女性だった2回目の変化量が最も高く、マイクトラブルが発生した5回目の変化量が最も低かった(図3)。これらから、メンバー構成、人数、環境等が共感に影響することがわかった。

 以上の結果から「ZAKONE を体験することで、オンラインであってもあたかもそこにいる感覚を得ることができ、共感形成を促す」といえる。没入方法や条件の維持に課題があるものの、ファシリテーターの台本見直し等で更なる改善が見込まれる。今後は、ZAKONEの特徴である「プライバシー確保、寝ながら、スマートフォン1台」で実施できることから、患者会等や、遠距離介護への応用につなげたい。