御牧ヶ原台地における風土理解のための方法論的研究
- 地域デザインユニット
早川ゼミ 地域デザインユニット Cチーム
本多 雄輔
丸山 弾
大野 真貴子
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1.研究の目的と背景 失われた「風土へのまなざし」
現代の都市開発や土木技術は、山を削り谷を埋めることで、効率的でフラットな「均質空間」を生み出してきた。経済合理性に基づき、土地は「資産価値」という数値に還元され、その場所が本来持っていた固有の地形や文脈は捨象されている。 その結果、私たちはかつて人々が持っていた感覚―地形を読み解き、自然の制約と共に生きるための身体的な知覚―を失ってしまったのではないか。本研究は、不可視化された土地(土台)と、その上の人間活動(営み)の関係性を再構築し、現代における「風土」へのまなざしを取り戻すことを目的とする。
2.観察・共感・洞察:風土の構成要素
本研究では、「風土」を、単なる客観的な環境データ(地質・気候等)ではなく、「人間存在の構造契機としての自然」(1)と捉え、「不動の自然環境(地形)」と「流動的な人間活動(歴史・文化)」の相互作用と定義する。

(図1) 風土の構成要素:自然基盤と人間活動の二層構造モデル
現代社会における風土の埋没
現代において、地形との対話が拒絶されている要因を三つの観点から特定した 。

(表1) 風土の埋没:地形との対話を拒絶する現代の構造的要因
3.問題定義〜創造視覚化
深い地域理解には、足元の地形と再接続する「風土」の多層的な理解が不可欠であるが、従来の地域理解手法には以下の課題が存在する。

(表2) 従来手法の限界:風土の多層性を捉えきれない既存メディアの制約
上記の問題を解決するため、以下の性質の異なる2つのメディアを融合させた「創造視覚化」の手法を提案する。

(図2) 創造的視覚化の設計指針と統合モデルの目的:時空間の統合による「身体的理解」と「対話」の誘発
4. ケーススタディ:御牧ヶ原台地
実証実験の対象地として、長野県東信地方の「御牧ヶ原台地」を選定した。

(図3) 対象地の選定と空間構造:御牧ヶ原台地の特性(上)および構造分析(下)
5. プロトタイプ
プロトタイプを以下の構成で設計した。

(図4) プロトタイプの実装とインタラクション:システム構成(上)と身体的操作(下)
6. 実証実験と結果
地域住民、行政関係者、観光ガイド等を対象に、本プロトタイプを用いたワークショップを実施した。参加者の発話と行動分析から以下の知見が得られた。

(図5) 実証実験の展開と知見:対話を生む、身体性を介した「地形的必然性」の理解
7. 考察:必然性の再発見 実験の結果、バラバラに存在していた「自然環境(地形)」と「社会環境(歴史)」が再接続されたことにより、参加者は、現代の風景が偶然の産物ではなく、「地形という制約に対して、人間がどう適応してきたかの結果(必然性)」であることを直感的に理解したと言える。静的な模型(不変の土台)があるからこそ、その上で動く映像(変化する営み)の意味が際立ち、土地に対する深い洞察が可能となった。
8. 結論:風土理解へ向けて
本研究が提案するプロトタイプは、専門家だけでなく、地域住民が自らの足元にある「風土」を再発見するための有効なメソッドである。
土地の固有性を理解することは、外部評価(地価や開発効率)に依存しない、その土地ならではの未来を描くための「自治の土台」となる。今後は、AR/MR技術との連携も含め、より多くの地域で適用可能なツールキットとしての展開を目指す。
(主たる参考文献)
(1)・和辻哲郎『風土―人間学的考察―』岩波書店,1935年。