社会人の『面白がり』を育むデザイン研究

  • 社会デザインユニット

早川ゼミ 社会デザインユニット Aチーム
友杉 円香
中村 祐介
一色 聡志
坂本 亮
引野 創
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1.テーマ選定と理論調査
子どもの頃に比べ、面白いと感じる頻度が減ったと自覚している社会人は少なくなく、筆者らの調査でも4割以上がその頻度が減少したと回答した。一方、多くの人が今より日常を面白いと感じたいと思っていることも確認された。先行研究では、面白いと感じることが創造性やウェルビーイングの向上に寄与する可能性が示唆されている。
では、子どもはどのように面白いと感じることを見つけているのか。子どもの観察、およびピアジェの認知的適応プロセス、シルビアの興味の二要因モデルに基づく理論検討を行った(図1)。その結果、周囲の対象を既存の認知の枠組みで理解しようとした際に生じるズレが、新奇性と理解可能性を併せ持つ場合に、面白いという感情が喚起されると整理した。
大人は経験の蓄積や慣れによって、日常のズレに気づきにくくなっているため、新奇性と理解可能性を併せ持つズレを意識的に探し、新たな枠組みを構築しようとすることが必要であると考えた。本研究ではこのような態度を「面白がる」と定義した。

2.リサーチと問題定義

社会人の日常における面白がりの実態調査(アンケート333名、インタビュー34名)から、新たな気づき等のアウトプットと、他者からのポジティブな反応が新たな面白がりを促すことが明らかとなった。これらの知見と前述の理論を踏まえ、理想の“面白がり”プロセスを整理した(図2)。 一方、課題として、余裕がない時や日常のルーティン化している場面では、新たなズレに気づきにくく面白がれていないことも明らかになった。以上を踏まえ、「日常の“面白がり”につながるズレに気づくデザイン」を問題定義とし、対象は、日常を今より面白がりたいと思っている20〜60代の社会人とした。

3.アイディエーションとプロトタイプ

日常の“面白がり”を促すため、アートを鑑賞し、気づきを5・7・5で表現し、他者と共有するアプリ”いっぷ句”を制作。異化と遊びを理論的基盤とし、4つの中核機能、①アート鑑賞(異化の要素)、②5・7・5による表現(遊びの要素)、③他者関与、④自身の視点や思考の分析・フィードバックを設け、理想の“面白がり”プロセスが実現できるように統合的にデザインした(図3)。

“いっぷ句”アプリ:https://ippuku-5-2-hs3ya7e87.created.app/?group=1

“いっぷ句”説明動画:https://www.youtube.com/watch?v=MLPn-9w8rrE

4.テスト結果と考察

“いっぷ句”を用いた検証(実験群43名、対照群44名)から、被験者が無理なく理想の“面白がり”プロセスを経験できていたことが確認された。また、自己認識指標において、日常におけるズレの探索や新たな意味づけの姿勢に向上が確認された。さらに、日常を模した画像に対する気づきを記述するテストでは、物語や背景の推測、違和感に関する記述の出現頻度で、統計的に有意な増加が認められた。加えて、インタビューからも、日常におけるズレへの探索や出来事の捉え直しといった意識や行動の変容が生じていることが確認された(図4)。

本研究は、子どもの発達心理学的知見と面白いという感情に着目した独自の介入策として“いっぷ句”をデザインし、社会人の日常におけるズレへの気づきや新たな解釈・意味付けを試みる認知・行動変容を促進する可能性を示した。今後、教育・職場・福祉等、多様な場面への展開も可能であると考えている。