社会人における「ひとり時間」の共有体験を通じた自己省察促進のデザイン
- 社会デザインユニット
早川ゼミ 社会デザインユニット Bチーム
武田 賢太
大久保 塁
西山 聡志
長浦 政男
池永 隆博
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0. 原体験
本研究はメンバーによる下記の体験が起点となる(図1)。

図1:原体験
1. 研究背景
近年、自分のための時間を持ちたいと思いながらも、時間的・環境的・心理的なハードルによって十分に確保できていない社会人は少なくない。特に20〜40歳代は、仕事や家庭といった社会的役割の只中にあり、自分だけの時間を主体的に設計することが難しい。しかし、ひとり時間に関する先行研究は学生や高齢者が中心であり、社会人における実態や充実条件、さらに充実感をどのように知覚・再構築するのか十分に検討されていなかった。 本研究では、ひとり時間を「自己決定に基づき、心理的に他者から離れ、自分らしく過ごせる時間」と定義し、社会人を対象に、他者のひとり時間を共有する体験が自身にどのような変化をもたらすのかを明らかにすることを目的とした(図2)。

図2:研究背景
2. 観察・共感・洞察
X(旧Twitter)の投稿分析および社会人への半構造化インタビューを通じて語りを収集・分析した。その結果、ひとり時間にはいくつかの特徴が示唆された。第一に、各人が固有のひとり時間を持つ「固有性」。第二に、その内容は他者と共有されにくい「閉鎖性」。そして、対話や共有を契機に意味づけが更新される「自己省察性」である。
さらに、インタビュー逐語録をもとにM-GTAを用いて分析した結果、ひとり時間を充実させる条件として、(1)社会的役割からの一時的離脱、(2)自意識からの一時的離脱、(3)行為の選択可能性、(4)再現可能性、の四構成要素を導出した(図3)。社会人のひとり時間は、単に物理的にひとりであることだけでなく、役割や他者の視線から一時的に離れ、自ら選択し継続できることが重要であると考えられた。

図3:ひとり時間を充実させる条件
3. リサーチクエスチョン
前述の内容を踏まえ、本研究では「他者のひとり時間を知ることは、自身のひとり時間にどのような変化を与えるのか」をRQとし、個人的なこだわりを含むひとり時間をシェアするためにはどのような仕組みが必要かを問題とした。
4. プロトタイプ
個人的なこだわりを含むひとり時間をシェアするために開発したのが、プロトタイプ「こだわりのひとり時間ガチャ」である。カプセルトイの親しみやすく偶然性を持つ形式を活用し、他者のひとり時間に触れ、自身のひとり時間を書き出して共有する体験を設計した(図4)。

図4:共有体験の設計
対面での相互作用を伴うオフライン型と、自分自身と向き合うオンライン型の二種類を制作し、それぞれ実施した(図5)。

図5:オフライン型(左図)、オンライン型(右図)のプロトタイプ
プロトタイプB(オンライン型)の体験はコチラ→https://takeda-reha.github.io/solitude-shareroom/
5. プロトタイプの検証と考察
検証の結果、いずれのプロトタイプも、他者のひとり時間に触れることで自身を振り返る認知的変化、すなわち自己省察が促された(図6)。一方、短期間の検証では具体的な行動変容や満足度の向上は限定的であった。ひとり時間の変化は、まず意味づけの更新として現れ、その後時間をかけて生活実践へ展開していく段階的プロセスである可能性が示唆された。

図6:アンケート、インタビュー結果
6. おわりに
本研究は、ひとり時間を個人内で完結する私的経験ではなく、他者の実践に触れることで再解釈されうる経験として捉え直した点に意義がある。共有を目的とするのではなく、共有を契機に自己省察を促すデザインの可能性を提示したことが、本研究の成果である。