管理職になりたての女性が感情回復を得るためのコミュニティデザイン
- 早川ゼミ
早川ゼミAチーム
阿部 隆男
大川 友成
大喜多 一範
城戸崎 祐馬
須藤 理恵
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現在の日本では、コミュニティに属せず孤立化してしまう人たちが存在し、孤独死、高齢うつなど心の問題に関わる社会課題が顕在化してきている。本研究では、「不安や悩みを打ち明けやすい仕組み」が孤立化を防ぐのではないかという仮説のもと、経験の浅い女性管理職限定のコミュニティ「NACHATA(ナチャータ)」を提案するものである。
高橋(2013)は、人は何らかの悩みを抱えると「情緒的支援」または「情報収集」の大きく2つのアプローチを選択するとし、その後に「感情の回復」もしくは「問題解決」がなされない場合、事態は深刻化し弱音を吐くに至ると論じている(註1・図1)。
まず、悩み解消までのパスがつながらず、弱音を吐けない状態でいる人たちの背景に着目し、20代-60代の男女316名を対象にWEBアンケート調査を行った。調査の結果、女性管理職で弱音を吐ける相手を求める傾向が高いことがわかった。さらに男女30代-50代管理職に対してインタビューを実施したところ、30代-40代女性はライフステージの分岐点が多いことやロールモデルの不在といった理由から、孤独で悩みを打ち明けづらく感情回復が必要な実態が明らかになった。
以上から、30代-40代女性管理職が感情の回復を得るための仕組みづくりの必要性を実感し、その中でも管理職になって間もない経験の浅い女性管理職限定のコミュニティ「NACHATA(ナチャータ)」を考案した。
「NACHATA」は、まだ自信も経験もないのに“管理職になっちゃった!”という不安な気持ちを同じ境遇にいる人同士で明るく励まし合い、感情の回復を目的とするオンライン上のコミュニティである。ジーン・レイヴら(1991)が提唱した学習理論の概念「正統的周辺参加論」を応用し、管理職歴に応じて参加者を3つの階層に分け、それぞれに役割を持たせることとした(註2・図2)。また、他者との交流を通じて自分なりのロールモデルを持つことをゴールとして、3年を経過するとコミュニティを卒業するプログラムを設計した(図3)。ただし、今回のプロトタイプでは1か月の検証期間として行った。
プロトタイプはFacebookをプラットフォームとし、参加者32名による約1か月間にわたる実証実験を行った。運営側が定期的にお題を投稿し、参加者はお題に対してコメント投稿やリアクションボタンで反応したり、参加者同士でコミュニケーションを促すような設計を行った(図4・映像1)。
検証の結果、他の人の悩みや吐露したコメントを見たり、自分の悩みを吐露したコメントに受容・共感するリアクションをされることで、一定の女性管理職層に感情回復効果が認められた(図5)。
今後の改善点として、経験年数ではなくコミュニティへの入会日数による参加の深度からコミュニティの階層を構成するように改良し、基本的にメンバーはフラットな立場で交流できること、専用アプリによるユーザビリティの向上、プライバシーへの配慮などに注力し、最終プロダクト化をしていくことで、積極的な参加・コミュニティの活性化が期待できると考える(図6)。