思秋期の大人の「のっかる行動」を誘発させるデザイン

  • 早川ゼミ

早川ゼミGチーム
石川 淳
神澤 亜紀子
桑原 隆彰
花本 直和
平井 慎太郎
山崎 瑠美
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 人生100年時代、老齢期を生き生きと過ごすためには心身の健康を保つことが重要とされている。しかし、思秋期(40-60代)を迎えた大人は、感情の老化が始まると言われており、それを防ぐためには面白がることが大切であるという指摘がある*1。本研究は、こうした思秋期を迎えた40-60代の大人にとって、日常の中で「のっかる行動」を誘発させるデザインをデザイン思考のプロセスを用いて提示することを目指したものである。
 最初に、事例調査から、新しい物事を面白がって取り組んでいる誰かに「のっかる」ことが有用なのではないかという仮説を導きだした。そして『他者の行動に軽やかにのっかることができれば、人生を面白がることができ、社会はよりよくなるのではないか』というリサーチクエスチョンを持つに至った。
 次に、観察・共感・洞察のプロセスではのっかる行動について多面的な調査を行った。その結果、のっかる行動とは、フォロワーシップ行動と同様に『他者によって誘発され、その後自覚を伴った上で生じた行動』であることがわかった*2。一方、他者との関係性においては、フォロワーシップ行動が主従関係であるのに対し、のっかる行動はフラットな関係であることがわかった。また、購買プロセスであるAIDMA理論との構造比較においては、対象の認知から行動を誘発させるという点で類似しているが、のっかる行動は興味・欲求・記憶が介在せず、認知から行動まですみやかに到達することがわかった。
 これらの調査から、本研究において解決すべき問題を『40-60代の大人にとって、日常の中で「のっかる行動」を誘発させるデザインとは?』と定義した。
 創造・視覚化のプロセスでは、のっかる行動における「面白い」の感情は、AIDMA理論における興味(Interest)とは異なり、面白さに対する十分な理解を伴わない「好奇心(Curious)」ではないかと考えた。つまり、のっかる行動は、認知から行動の間に好奇心が介在し、不確かな状態でつい行動してしまう様であり、図1の『ACA理論』で説明できる。そして認知から好奇心、好奇心から行動の間にはのっかる行動を阻害する「情報負荷の壁」*3と「自動思考の壁」*4*5があると仮定し、プロトタイプによる検証を行った。

 『ACA理論』の検証のため、X(旧Twitter)とGoogleSiteを利用したプロトタイプを構築し、テストを行った(図2)。

 最初のテストの結果、想定通りの結果を得たものの、SNSでの拡散時に被験者に対する紹介者のバイアスがかかった事、ACA理論を用いた仕掛けの有無による効果検証が出来ていない事が課題として残った。
 そのため、課題を解消したプロトタイプ2による比較対照の再度検証を行った。結果、ACA理論を用いた実験群において、思秋期の大人ののっかる行動は誘発させやすいことがわかった(図3)。

 これまでの検証結果を整理し『ACA理論を活用した「のっかる行動」を誘発させるデザインは、思秋期の大人のみならず多くの人に有用である』と結論づけた(図4)。

 今後は、メンバーそれぞれが所属する業界・フィールドで社会実装等のプラクティカルな活動を通じ「大人が軽やかにのっかり、人生を面白がることができる社会の実現」を目指したいと考えている。