横浜中華街 同郷団体活動によるアイデンティティ確立と街の発展との関連性

  • 大学院研究員

山田 賢治

研究概要

修士課程2年で、相互扶助の精神で横浜中華街の礎を作り上げた同郷団体の存在意義について研究した。1859年の開港以来、横浜の地を踏んだ華僑は広東省出身者が中心だった。その「老華僑」は世代交代が進み、日本人との婚姻や日本文化の浸透などで華僑としてのアイデンティティに変化が生まれている。
また、1970年代後半からの中国の改革・開放政策によって来日した「新華僑」は福建省出身者が中心で、商売を目的としたネットワークを形成する同郷団体が約10年前に立ち上がった。コロナウイルス感染拡大により経営環境が厳しくなる中で、いま一度同郷同士の連携を強め、逆境を乗り切ろうという動きも見られている。
横浜に拠点を置く各同郷団体の動きをまとめ、2022年10月「日本華僑華人学会研究大会」において個人発表を行い、華僑新世代のアイデンティティの模索の中で、同郷団体の役割の見直しについて言及した。2023年度も引き続き同郷団体の動きを研究した。
同郷団体の存在意義として、方言集団的要素と利益集団的要素が挙げられる。その中で、出身地またはルーツのある地域の言語を学び直し、自らのアイデンティティを見直す動きが同郷団体で生まれている。
現在中国では、標準語である「普通話」の教育が行われていて、普通話とは大きく異なる各地域の言語を話せる人が少なくなっている。そのような中で2012年に広東省中山市出身者によって設立された「横浜中山郷友会」では、現在、毎月横浜山手中華学校で広東語講座を開いている。華僑三世を中心とした会員が学び、実際に「言語を知ること、学ぶことで自分のアイデンティティが増してきた」「広東でビジネスをするとき相手が急に広東語を使う時がある。ニュアンスを含めて理解したい」という声が聞かれた。
四世、五世と世代が変わる中で言語を通じたアイデンティティ再確認により、中華街には欠かせない、中国各地域の独自な文化を出そうという意識の醸成につながると考える。

今後の研究活動

同郷団体の研究として、論文数が少ない「新華僑」に焦点を当て、日本全国の華僑や中国本土にいる同郷人と具体的にどのようなつながりでビジネスを行っているのかを探る。中華街の伝統や文化資産をどう生かそうとしているのか、中華街発展のための大きなカギだと考える。
さらに、横浜中華街の文化資産を知る博物館開設の可能性について検討する(添付資料参照)。横浜は1923年の関東大震災や1945年の横浜大空襲で街が壊滅し、それまでの歴史を物語る大部分が焼失している。そのため戦後の資料が中心となるが、写真や生活用品、書誌などのほとんどを個人が保存していて、収集して保存、活用していくことが求められる。横浜中華街には連日中国の食べ物や雰囲気を味わいたいと多くの観光客が訪れているが、横浜開港から華僑華人がどのようにして街を作り上げたかなど、文化資産を後世に残していくことが、今後の街の発展にもつながると考える。