芸予諸島の海民文化

  • 野村ゼミ

野村ゼミCチーム
中原 薫
森永 康平
前田 陽子
西中 潤
後藤 歩
本丸 生野

芸予諸島は、地理学で正式の呼称として定められていない、呼びならわしの名称。有人島は約50、人口は約17万人で、構成自治体は12町村にわたる。行政の範域とは異なる、しかし特定の名称で表されてきた1つの地域である。グループ研究としての風土記は、明確に概念化されていないこの地域を文化的視点から深堀りするとともに、そこに生きた人々の物語を抽出し、その視座から考察する試みとなった。具体的には、組織哲学、信仰、漁民、製塩、地域性、観光の6つを、芸予諸島の地域性や発展と紐づきが強い要素として設定した。そして、各要素をメンバーで分担し、そのトピックが際立ったエリアを重点調査地区として選定した。研究メンバーは、様々な角度からの文献調査と現地調査を通して、芸予諸島の海民由来の美意識、アイデンティティ、物語の言語的認知を進めた。
次に、6つの視点による調査結果をクロスさせ、関係性を探った。それにより、厳しい潮流、陸地の乏しさ、本州・四国との地理的分断ゆえの試行錯誤・切磋琢磨によって芸予諸島の海民文化が育まれてきたことや、海賊禁止令や工業化などが画期となり、文化が多様に変遷しながらも相関してきた「不連続統一体」であることが明らかになった。そして、この統一性がないように見える地域を「多様性のある不連続統一体」とみなした時に、身体感覚、精神力、考動力、海への畏敬といった「海民文化」こそが、芸予諸島の文化を概念化する原理であると考えた。
研究の後半(個人研究)では、未来に向けて文化資産を再評価するためのプロトタイプの作成・検証等を行った。それら6つの研究成果を俯瞰することで到達した提言は次のとおりである。「研究者の介在により、住民の地域文化に対するメタ認知は促進される。行政の範域と実質地域が一致しない芸予地域においては、6つの視点によるプロトタイプ(研究者による媒体)の実装により、多様で物語に富んだ海民文化への理解が促進される。それにより、住民自らのアイデンティティが揺さぶられ、未来に向けて、さらなる地域文化の価値化や醸成が期待できる。