地域文化の醸成と芸術実践に関する研究

  • 大学院研究員

前田 陽子
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目的
アイヌ新法以後、先住民施策は前進したが、一般社会へのアイヌ文化の伝承という側面では未発達段階にある。本研究は、北海道の地域文化の課題に対し、良好な醸成を促進させる触媒としての芸術実践に着目、論述によって、かの芸術実践の価値を高めることを目的とする。今日のアイヌ研究は、文化面の研究とスティグマ研究が最も多い。また、エスニックアイデンティティの調査や支配的アイデンティティフィケーションの調査は存在するが、地域文化の醸成を目的とした住民の意識調査や、改善の可能性を芸術実践に求めた調査はされていない。

経緯と成果
1 北海道の博物館学的状況把握のため、研究会、各施設への訪問、聞き取りを行った。(北海道民族学会/アイヌと北大を考える会/帯広百年記念館/函館市北方民族資料館/江差町郷土資料館/八雲町木彫り熊資料館/豊浦町アイヌ文化情報発信施設/音更町郷土資料室/幕別町文化考古館/浦幌町立博物館/旭川市博物館/北海道博物館/民族共生象徴空間ウポポイ/国立アイヌ民俗博物館/北海道旧本庁舎他)
これらを通観すると、北海道の歴史は、開拓と戦争の歴史を語るシーンと、アイヌからみたアイヌ文化の継承を語るシーンに二分されていることがわかる。一般社会に伝承されるアイヌ文化をまとめたものは地名研究のみで、常設展示は北海道旧本庁舎のみであった。


2 十勝を中心としたアーティストのコンテクスト調査を行なった。(実訪、新聞記事)自然への賛歌、私小説的、世界平和などのコンテクストが多く、人文地理学的に密着したものは見つけることが出来なかった。


3 野田サトルの漫画『ゴールデンカムイ』を芸術表現として着目し、これに関わる地域変容を住民への聞き取りと文献調査によって行なった。購読経験を持つ読者のアイヌ文化への関心は非常に高まり、以後の新たな行動に結びついていることが窺えるが、その分析については研究者の希望的感想に止まっていることが分かった。

課題
現時点で、地域文化醸成をコンテクストとした芸術実践は非常に少なく、さらに調査し論述していくことを通じてセグメントを作っていきたい。

今後の研究活動

該当する芸術実践について論述していく計画である。