会社人間の50 代男性が潜在的な欲求に気づくためのデザイン

  • 早川ゼミ

早川ゼミG チーム
大辻 允人
酒井 希望
福澤 英弘
山本 彩
割田 剛太郎
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 本研究は、「働く社会人を元気にしたい」という興味関心に基づき、50代男性に着目した研究である。国の調査では、50代男性の総合満足度が特に低いとされており、孤独感と生活満足度、孤独感と社会とのつながり、それぞれには強い相関があることが示されている。他の先行研究も紐解くに、社会とのつながりが不足していると、孤独を強く感じ、生活満足度が低い。また、孤独感を伴わずとも、社会とのつながりの不足が、生活満足度の低さにつながることが分かっている。(図1)

 

 

 そこで「社会と深くつながることで、会社人間の50代男性がイキイキできる世界」を目指し、「会社人間の50代男性は、社会とつながれているだろうか?」をRQとした。

 

 観察・共感・洞察フェーズでは、当該男性15名に対し、社会とのつながりに関するインタビューと、孤独感に関するアンケートを実施した。(図2)

 

 

 ここから分かったことは、当該50代男性は、会社という既存集団へ安住しており、きたる定年を前にアイデンティティの拠り所(会社)を失う漠然とした不安を抱えている。社会との深いつながりを結ぶことで孤独リスクは下げられるが、その軸となる新たなアイデンティティの拠り所(会社の代わり)は見つけられていない。さらにそれは、回答者の多くが語っていたとおり、言語化を通じ、自身の内面から見つけ出す性質のものである。

 

 よって「会社人間である50代男性が、新たなアイデンティティの拠り所のきっかけを内面から見つけ出すにはどうしたらいいか?」を問題定義とし、「会社人間の50代男性が潜在的な欲求に気づくためのデザイン」として、「人生100年時代のライフテーマデザイン」というWSを開発した。(図3)

 

 

 このWSの対象者は50代会社員男性とし、WS終了時のゴールは、「やりたいこと」という潜在的欲求に気づくことである。行動変容ステージモデル(Prochaska,1997)を用い、ステージが進展することを期待した。また、観察時にパートナーの影響が散見されたため、パートナーからの視点を取り入れた設計となっている。(図4)

 

 

 WSの結果、何らかの気づき若しくはやりたいことが見えてきた参加者は83%に上り、75%の参加者に行動変容ステージの進展が見られた。当初、パートナーの視点は、参加者の潜在的欲求の発見に大きな影響を与えると考えていたが、検証の結果、潜在的欲求の発見よりも行動変容ステージの進展のほうに寄与していることが分かった。

 

 また、潜在的欲求の発見には、初対面、同性・同年代、似た境遇といった特性を持つ他の参加者が有効に働くことも分かった。こうした参加者同士の対話は、受容しやすい本音や的確な共通言語が共感をもたらすとともに、ロールモデルの発見の場ともなり、潜在的欲求の発見や、その後の行動につながったものと考えられる。(図5)

 

 

 本WSは、より効果的な参加者構成や、パートナーの関与方法といった課題は残るものの、改良を重ね、より多くの会社人間の50代男性の潜在的欲求の発見に貢献できたら幸いである。さらには、それを起点にアイデンティティの拠り所へと発展させ、社会とのつながりを実感してもらえたらと願う。