複数自治体が連携して発行する共同地域通貨について
- 大学院研究員
真殿 修治
研究概要
【問題】
地域通貨は単独の自治体等で発行されることが多いが、地域経済循環システムは単独の自治体にとどまるとは限らない。中心都市と郊外都市などそれぞれの自治体が役割分担を担っているケースも多く、そのような地域経済循環システムを考慮しない地域通貨の利便性は利用者から見て劣後するものと考えられる。利便性が劣後する場合、地域通貨の実質的価値は低下するので利用者はその使用を回避するようになる。従って、流通範囲を拡大させ地域通貨の利便性を高めることは、当該通貨の流通速度を高め、地域経済活性化への寄与を高めるものと考えられる。また、日本は人口減少社会であるため、一部の都市を除く個々の自治体では人口が減少していく可能性が高いが、その場合には利用者の減少に加えて、単独の自治体の信用度によって地域通貨の発行が困難なケースも考えられる。その際にも、複数自治体の連携は有力な選択肢となってくると考える。
そこで、複数自治体が連携して、地域通貨を発行する場合の方法及びその際に生じる問題や課題について、検討を行った。
なお、検討に当たっては地方自治体が地域経済活性化を目的とした財政支出のために発行するMMT型地域通貨を想定している。
【研究内容】
まず、地域通貨の地域内でのニーズ充足度が低い場合には、地域通貨の経済的価値が減価することを確認した。地域通貨には経済的価値以外にも、例えば地域コミュニティの活性化などプラスの効果もあるので、この±の効果をどう評価するかについては、行動経済学でいう損失回避という特性(1万円を失った時の悲しみは、1万円をもらった時の喜びの2倍以上)を援用し、一部の利用者を除いては地域通貨の使用を回避する行動を行う可能性が高いことを示した。
次に、国際金融のトリレンマのフレームワークを使い、自治体間連携においては、複数通貨の併存と共通通貨の発行のいずれが望ましいかについて検討をした。国内における自治体間連携のため、自由な資本移動は確保されることから、複数通貨を前提とした安定した為替相場か、共通通貨を前提とした金融政策の独立性のいずれかが犠牲になることになるが、検討の結果、共通通貨の発行が望ましいという結論に達した。この場合、金融政策にどのような制約がかかるのかについて分析を行った。
【分析結果】
金融政策の独立性が失われるとした場合それはどのようなものになるかについて、同一の地域経済循環システムに属するA市とB市という商工業取引規模が大きく異なる自治体を想定し、それぞれが様々な金額の地域通貨を発行するシミュレーションを行った。その結果は、商工業取引規模の比率を上回って地域通貨による支出を行った場合、一定の地域通貨が他方に移転するということになった。この結果は、一方が地域通貨の発行を相対的に増やすことは、他方の地域通貨供給量を増やして他方の経済活性化に寄与することを意味している。
本来、地域経済の活性化のためには地域通貨の発行量を増やして支出を行うことが望ましいが、上記のような結果が予測されるのであれば、発行は抑制的になると考えられ、この状況はゲーム理論で言う囚人のジレンマに該当する。従って、地域通貨の発行にかかる金融政策は情報共有を行わなければ双方とも抑制的なものになる可能性がある。
【考察】
地域通貨のニーズ充足度を高めることは、地域通貨の流通量を高め、経済活性化に寄与させるためには必要な条件と考える。複数自治体における共通通貨の発行は利用者のニーズ充足度を高める効果が期待できるものの、囚人のジレンマが発生し、結果的に発行地域の地域通貨流通量が漸減していく可能性もある。従って共通通貨を発行したとしてもそれだけで中長期的な地域経済の成長の十分条件にはならず、情報共有による適切な発行計画が必要である。
その上で現代の電子的技術を使い、地域通貨がどこでどのような商品に使われたのかを把握し、地域のニーズ充足度に対して不足している業種を育成することでニーズ充足度を高め、地域経済の成長を図ることは可能と考える。
研究活動と成果
私はMMT型地域通貨という新しい地域通貨について研究しておりますが、その一環として昨年の地域活性学会研究大会にて「複数自治体が連携して発行する共同地域通貨について」という内容の発表をしました。研究概要はその際の要旨です。
また、昨年は「地域活性研究」に査読付き論文「藩札制度及びMMT理論を参考にした新たな地域通貨制度について」の投稿を行い、採択されております。添付資料にはその採択された原稿を添付しております。
今後の研究活動
MMT型地域通貨については、現在のサービス提供者のインフラを前提とした実現可能性を検討していきたいと思います。また、MMT型地域通貨を提供するネットワークインフラが実現すると地域にとって別の可能性ももたらすものと考えておりますので、そちらについても併せて検討していきます。これらにつきましても内容がまとまりましたら地域活性学会での発表を行いたいと思います。