デザイン思考を活用した探究型美術学習モデルの開発
- 大学院研究員
岩佐 まゆみ
研究概要
本研究は、不登校経験のある生徒を含む多様な背景を持つ生徒たちの学習動機づけを向上させるため、自己決定理論の「有機的統合理論」(Ryan & Deci,2017)を参考にした観察をもとに、探究型美術学習モデルを開発、実践したものである。
文部科学省の最新調査(2024.10.31)によると、不登校児童生徒数は過去最多を更新しており、筆者の2024年度勤務校である定時制高校でも特別な学習配慮が求められる状況がある。これらの生徒の多くは、小・中学校時の不登校経験の影響で、特にコミュニケーション面での課題を抱えていると推測される。
授業観察やアンケート分析の結果、美術の授業における生徒の学習動機づけレベルの実態は無動機づけ〜外発的動機づけまで幅広く見られたが、どちらかというと非自己決定的行動レベルの方が強いと推測された。そこで、生徒の動機づけを高めるには、まず基本的な美的体験を増やす取り組みが必要と考えられ、その一環としてコミュニケーション能力の育成につながる対話型鑑賞が有効であると判断した。ただし、直接対話が難しい事情を考慮し、教師による意見の代読を取り入れた方法を採用した。
授業は2024年10月に大分県立爽風館高等学校定時制の生徒56名を対象に4回行われた。Zoomを用いて美術館学芸員と連携、生徒が主体的に意見を出せるよう授業支援アプリ「MetaMoji ClassRoom」の匿名デジタル付箋を用いた。鑑賞題材には、作者の若年期のいじめ経験に生徒が共感を持つことが推測されることからサルバドール・ダリの作品を選び、作品そのものからダリの人物像を想像・創造していくプロファイリング的な探究型鑑賞を実施した。全体構成は、修士研究で開発した学習モデルと同様にエドマンド・リーチの通過儀礼論に倣い、1コマの授業の中でデザイン思考の5ステップの流れを援用する形でフェーズを構成した。
対話型鑑賞の際に教師が生徒の意見を代読し共有したことで、生徒の心理的安全性が確保され、他者の意見を傾聴する姿勢も見られた。実践の結果、生徒は多様な視点を学べた喜びや授業の充実感が得られ、動機づけ向上の効果が示唆された。この取り組みは、不登校経験の影響が強い生徒にとって効果的な美的体験となることが確認された。
研究活動と成果
美術による学び研究会編「美術による学び研究会メールマガジン」第536号(2024年8月)および第561号(2025年2月)にて実践研究報告。
今後の研究活動
研究内容をより広く一般に報告できるよう、今後は執筆途中となっている論文を完成させ、学会等へ投稿する予定。