南魚沼市八海山麓地域の風土の研究 ―地域に生きる里山伏― (2023/1/10)

佐藤 隆彦

一般公開

【研究要旨】

 本研究では八海山麓地域の大崎地区において、修験寺院の法印として生きる里山伏に着
目し、里山伏と地域社会との関係性とともに、地域の風土の背景にあるものを考察する。
 里山伏は山伏の一形態であり、地域に土着して地域の人たちの信仰の対象になった修験
道の実践者である。地域住民との密接な関係性を背景にした、対話による個人や共同体の
救済に特徴づけられる身近な宗教者として、人づくり・地域づくりの中核を担ってきた存
在である。そして地域独自の伝統行事や風習等を通じて、地域の風土の基層にある歴史や
文化を次世代に伝えていく伝道師としての社会的価値や期待があることがわかってきた。
 現代に生きる里山伏の文化資産的価値は、①地域住民との密接な関係性の中での対話に
よる人づくり・地域づくり、②地域で引き継がれてきた独自の伝統行事や風習の維持継承
と先導、③生活とともにある信仰や神仏への祭祀、その意味の伝承の三点に集約される。
 また、こうした価値の維持継承に係る課題として、①里山伏の存在や社会的価値・機能
に対する認識が弱いこと、②地域に残る独自の伝統行事や風習の文化資産的価値への理解
が希薄であること、③伝統文化や風習と日常生活との関係性がわからなくなっていること
があげられる。
 文化資産の利活用を通した課題解決を図るためには、地域の文化資産に対する外部から
の価値づけに加え、地域の人自身が知り、地域の人の文脈で次世代に語り継ぐとともに、
郷土に誇りを持ち、郷土の自慢として話し、伝えられることが必要だと考えられる。課題
解決に資するための、大崎地区に特化した簡易なプロトタイプを提示した。
 さらに、地域に生きる里山伏を通して見える大崎地区の風土について、現地で里山伏や
地域住民と幾度となく出会い、地域の風土についての対話を繰り返す中でその一端を発見
し、言語化した。
 大崎地区は里山伏が先導し、地域をあげて守られてきた特徴的な風習や行事が根強く残
っている地域である。里山伏や彼らが残る地域を再評価することは、廃れゆく地域の文化
や風土を再発見し、次世代に継承していくきっかけとしての意義がある。

研究報告書全文及び巻末資料集(p36~58の聞き取り調査記録は一般公開になじまない部分が多いため除外しています。)

佐藤 隆彦 サトウ タカヒコ

所属:芸術専攻 学際デザイン研究領域

IDS 2期生。新潟県柏崎市出身、埼玉県在住。 【関心領域】 宗教民俗、庶民信仰、風土 【学位】 修士(芸術/2023)、学士(人間科学/2001及び人間学/2010) 【所属学会】 日本宗教民俗学会、新潟県民俗学会 【資格】 救急救命士(2007)、社会福祉士(2001)ほか技術系国家資格等多数所持。 【職業】世界最大の消防本部にて、消防官として都内消防署、本庁、基礎自治体等で勤務。現在は本庁管理職として勤務し、消防政策の企画立案業務に従事。